2024年2月中旬、浦添事務所・奄美事務所で司法修習目前のインターン生を受け入れました。その体験記が届きましたので掲載します。
そらうみ法律事務所では、南西諸島や岩手県沿岸部への赴任を前提とした新人・経験者の採用活動を継続していますので、司法過疎問題に興味関心のある方は、ぜひご連絡ください。広い日本、あなたの力を必要としている方がたくさんおられます。私たちの活動にぜひ参画してください。
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1 はじめに
私は、2月14日から同月16日までの3日間、そらうみ法律事務所浦添事務所の鈴木先生と同所奄美事務所の青松先生の沖永良部島での出張業務に同行する形で、インターンシップに参加しました。
3日間のインターンシップでは、依頼者・相談者の居宅に直接お伺いする出張訪問、島の遺言者の遺言執行者業務、役場主催の法律相談会など、離島における弁護士業務の最前線を拝見させていただきました。
この中でも、特に印象深い内容について、5つほど述べさせていただきます。
2 一つ目は、沖永良部島に来て初めて訪問した依頼者宅でのことです。
(1)訪問目的は、受任していた相続放棄の案件で、諸々の手続きが完了したことを報告することでした。
空港から依頼者宅までレンタカーで移動中、鈴木先生から相続放棄に関して、若干ソクラテス・メソッドを受け、本件でどのように弁護士として業務を行っていたのかを振り返りました。実際に本件で、鈴木先生が、どのような思考で、どのように相続放棄に向け行動していたのか、その思考プロセスを追体験できたのは、司法試験の短答式試験レベルでしか相続放棄について知らない私にとって貴重な機会でした。
相続放棄は、医師で例えるなら、傷口に絆創膏を張るような仕事。でも弁護士がいないこの島では、その張り方すら知らない人が多い。知らないうちに化膿して手遅れになってしまう。そのように仰っていた鈴木先生の言葉も印象的でした。
(2)さとうきび畑をひたすら通り抜け、依頼者宅に到着すると、鈴木先生とともに畳の客間へ案内されました。家族の写真や思い出の品が至る所に置かれ、家族愛にあふれる客間。それと対照的に、最愛の家族を失い、失意の底にいる依頼者。そのなかで、鈴木先生は、言葉を選びながら事件の報告をし、ひたすらに依頼者の想いに寄り添っていました。
私は、ただ依頼者の言葉に耳を傾け、出されたコーヒーとお茶を飲み干し、相槌を打ち続けることしかできませんでした。インターン生なので、はなからあの場で何か発言することが求められていたとは思っていませんが、あの場に同席した人間として、依頼者に何も声をかけることができないことへの無力感のようなものを感じていました。また、それと同時に、これから様々な研鑽を積み、いつか、あの時の鈴木先生のように、言葉を選びながら、依頼者とやりとりをし、依頼者の想いに寄り添える弁護士になりたいと思いました。
報告を終え、鈴木先生と共にご自宅を後にする際、依頼者の方から、私に「いい先生になってくださいね」とおっしゃっていただけたのも強く印象に残っています。あの場に同席することができて本当に良かったです。
3 二つ目は、鈴木先生による別の相談者宅での出張相談に同行した際のことです。
訪問目的は、B型肝炎給付金に関する法律相談であり、これから具体的な話をするとのことでした。ご自宅の前に到着すると、呼び鈴ではなく、玄関の引き戸を開け、「ごめんくださ〜い!」と言い、依頼者に来訪を告げる鈴木先生。これも、この島ならではだなと、感心しながら拝見していました。(2)と同様、客間に案内され、鈴木先生と共に着座した後、鈴木先生が相談者の方と軽い雑談をしたのち、鈴木先生がいくつか依頼者に質問を行って、本件におけるB型肝炎給付金を受給できるか否かのポイントなどをご説明されていました。
私自身、B型肝炎訴訟については、テレビのコマーシャルなどで見聞きするにとどまり、実際の給付金制度の仕組みやB型肝炎訴訟の内容については、存じ上げていなかったので、純粋に勉強になりました。
一通り、B型肝炎に関する説明と今後依頼者にしてほしいことの説明が終わった後、鈴木先生は、依頼者の方に、「ほかに何か聞きたいことはありますか」と尋ねられました。そうすると、依頼者は、「実は土地のことで聞きたいことが…」と切り出します。しかも、話を聞くと、権利関係でかなりの問題を孕んでいる内容でした。そこから、B型肝炎とは全く関係のない土地に関する法律相談が始まりました。
鈴木先生が依頼者のご自宅を訪ねなければ、鈴木先生があのとき「ほかに何か聞きたいことはありますか」と尋ねなければ、法的支援に結びつくことはなかったであろう内容を聞きながら、私は、弁護士によるアウトリーチの実際を目の前で見ることができたことに心を躍らせていました。
司法過疎地における司法ソーシャルワークの実際を知りたいと思い、今回のインターンシップに参加した者として、本当に貴重な経験でした。
4 三つ目は、鈴木先生の遺言執行者業務に同行した際のことです。
(1)その日は、まず役場の窓口にて、遺言者が死亡しているか否かについて弁護士職務上請求をし、除籍謄本を確認する作業に同行しました。その上で、現時点で今後遺言執行者がすべき事について、鈴木先生とディスカッションをしました。議論の軸にあるのは司法試験対策や法科大学院で勉強した民法の知識でしたが、今まさにディスカッションしているのは実際の事件、生きた事件であることを思うと、身の引き締まる思いでした。
(2)ディスカッションでは、本件遺言書に後行する遺言書の有無の確認方法について議論した際に、鈴木先生から、遺言執行者の負う善管注意義務の観点からどこまですべきかを考えようとアドバイスをいただいたことを覚えています。
確かによくよく考えれば、当然のことではありますが、これまでの私には持ち合わせていなかった視点であり、とても勉強になりました。
(3)また、現行民法の施行日について、沖永良部島を含む奄美群島は本土と時期が異なるとご指摘いただいたこともかなり印象的でした。最初、鈴木先生より、「現行民法っていつから施行されているんだっけ」と質問された時は、何を言っているのか質問の意図を掴めなかったのですが、「戦後、沖永良部島はいつ米軍から返還されたんだっけ」と質問の補足をされた際に、小笠原諸島や奄美群島、沖縄諸島は、戦後米軍の統治下にあり、統治中は旧民法がそのまま適用されていたことを思い出し、すごくハッとしたのを今でもよく覚えています。
旧民法が適用されるか、現行民法が適用されるかで、相続形態がまるっきり異なる以上、この事実は、弁護士業務をするにあたって必須の知識であるにもかかわらず、私はこれまでそのようなことに一切思いもよらなかったことに若干の恐怖心を抱いたくらいです。
沖永良部島のような様々な歴史を抱える地では、法令の適用も複雑になっていることに特に留意しなければならいないことを肝に銘じようと思いました。
5 四つ目は、鈴木先生と青松先生による役場主催の法律相談会に立ち会わせていただいた際のことです。
(1)まず、法律相談会が始まる前に、町が事前に申込者の受付をした際に作成した相談申込書を拝見させていただいたのですが、さながら法律事務所の事務局さんが作成したかような丁寧なものとなっていることに驚きました。私がその旨鈴木先生にお伝えすると、「でも皆さん法律事務所までは来ないんだよね」と鈴木先生はおっしゃっていました。
役場が町の中核になっていることや役場が開催するから相談者が来るという司法アクセスの現状を再認識する機会でした。
(2)また、今回の法律相談会では、先生方が相談者の方とどのようにコミュニケーションをとるのかについて勉強するという意味も込めて、鈴木先生と青松先生が交互に相談の主任を受け持ってくださいました。本当にありがたい限りです。
実際に、法律相談における先生方のコミュニケーション術について拝見させていただきましたが、鈴木先生も青松先生も、相談者のご様子や言葉遣いに応じて、相談者のご様子や言葉遣いに応じて、くだけた表現をしたり、理論的に事実確認をしたりするなど、上手くコミュニケーションの方法を変容させているのがとても印象的でした。
一日二日ですぐに盗める技術ではないことはわかっていますが、今回拝見させていただきました先生方のコミュニケーション術を参考に、これから司法修習に臨みたいと思いました。
(3)そして、法律相談の内容としては、和泊町・知名町ともに、土地の移転登記手続きや、相隣関係、不法行為、相続相談等、具体的な内容は様々でしたが、どれも不動産に関する相談であったことが印象的でした。また、一般的に見てそれなりに大きな契約(土地の賃貸借等)であっても口約束で契約を締結している事案が散見され、これもまた印象的でした。あとで、鈴木先生に確認したところ、沖永良部島は、対面での人間関係が特に大切にされており、郵便や書面を用いる風習があまりなく、それゆれに契約も(お互いの信頼関係に基づく)口約束でなされることが多いのではないか、とのことでした。
改めて、島内に法的な常識がそこまで浸透していないことと、司法過疎地における弁護士の必要性を再認識したひと時でした。
6 五つ目は、最終日、奄美大島に移動し、奄美事務所の岡本先生と青松先生と共に懇親会をした際のことです。
岡本先生は、そらうみ法律事務所が、どのように収益を上げているのか、奄美事務所では、月にどれくらいの経費が掛かり、これを賄うためには、どれほど稼がなければならないのかについて、丁寧に教えてくださいました。
「持続可能性がなければ、意味がない。そのために経済的合理性も考えないといけない。」との岡本先生のお言葉が今でも印象深く残っています。
3日間、沖永良部島で拝見してきた先生方の活動は、稼ぐべきところでしっかり稼いで収入を安定させる努力があってこそだと再認識し、改めて司法過疎地で弁護士業を営む難しさというものを考えるきっかけとなりました。
このほかにも、青松先生が受任されている事件に立ち会わせていただいた時のことや、和泊町役場の方々との懇親会に参加させてもらった時のこと、鈴木先生がレンタカー屋さんから大量のじゃがいもをもらっていたことなど、印象に残っている内容はまだまだたくさんあるのですが、延々と書き続けてしまいそうなので、僭越ながら体験記の内容としてはこの辺までにしておきたいと思います。
7 さいごに
この三日間、鈴木先生をはじめ、青松先生、岡本先生、そして在間先生には大変お世話になりました。あっという間の三日間でしたが、どれも非常に濃密で、先生方のもとでしか経験することのできないものばかりであり、司法過疎地における弁護士業務を知る上で、とても刺激的な毎日でした。
今回のインターンシップに参加して得た気付きを存分に活かし、これから自分の目指すべき法曹像を改めて考えていきたいと思います。
この度は、お忙しい中このような貴重な機会を設けていただき、本当にありがとうございました。
(東京大学法科大学院修了 赤間大晟)
以上