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ブログAlways blue skies behind the clouds

災害関連死 〜声なき声を遺訓とするために〜

東京事務所の在間です。

 

東日本大震災から、8年と5か月が経過しました。

私は、これまでに、数多くの災害関連死(震災関連死)の問題に接してきました。

災害関連死に関しては、多くの報道がされていますが、重要な問題が見過ごされているように感じています。

 

 

災害関連死について考えるとき、私にとって特に印象深いある男性(「Aさん」とします)の件があります。

 

Aさんは、東日本大震災の津波被害で自営していた店舗を失いました。

高台の住居は被災を免れましたが、収入の一切が絶たれてしまいました。

事業ローンや子ども達の進学費用、生活費を捻出しなければならず、店舗の早期再開を目指しましたが、被災した市内で用地を確保することはままならず、時間だけが経過していきました。

Aさんは、焦り、不安などのストレスから、不眠に陥り、持病の高血圧症も急激に悪化していきました。そして、震災から9か月後、Aさんは心筋梗塞が原因で亡くなられました。

 

Aさんの妻は、Aさんの死は「災害関連死」にあたるのではないかと考え、災害弔慰金の申請を行いました。しかし、市からは、Aさんには震災前から既往症があったなどの理由で、申請を却下されてしまいました。

Aさんの妻は、納得ができず、訴訟を提起しました。

訴訟では、既往症があったとしても、震災によるストレスがそれを悪化させ、死に繋がったとの裁判所の判断が下されて、最終的に災害関連死と認められました。

Aさんの妻は、最初の申請から約3年の時を経て、ようやく、震災で亡くなった者の遺族として扱われるようになりました。

 

 

災害弔慰金の支給等に関する法律3条は、「災害により」死亡した者の遺族に対して災害弔慰金を支給すると定めており、直接死に限定せず、死亡と災害の間の関連性(災害関連性)が認められれば、関連死も対象とされます。

災害関連性の有無は、自治体に設置された審査会において判断されることになりますが、多くの事例で、死亡の原因が、災害によるのか、その他の要因によるのかの境界があいまいで、その判断は容易ではありません。

私自身、ある自治体で審査会の委員を務めていましたが、災害関連性の有無の判断は、本当に難しく、悩むことばかりでした。

 

そのため、災害関連性の判断のばらつきを防止するために、統一基準が策定されるべきであるという声があります。

しかし、私は、「基準ができれば、正しい判断ができるようになるはずだ」と安直に捉えている見解には違和感を覚えます。

災害の種類や規模、地域によって、被災者が受ける影響は千差万別です。例えば、新潟県中越地震では発災から3年2か月後には仮設住宅の入居者数はゼロとなったのに対し、東日本大震災では発災から8年が経過してもなお3000人以上の被災者が仮設住宅での生活を余儀なくされています。

また、個々の事案毎に、死因や災害前後の生活状況、災害で生じた被害など、災害から死亡に至る経緯は多種多様で、同一の案件は一つもありません。

この災害関連死の特性を無視して、安易に基準を策定し、個々の事案に当てはめようとすると、かえって、実態に即さない不当な認定結果を導くおそれが強いと思うのです。

 

審査基準を設けるのであれば、少なくとも、過去の災害関連死の事例が十分に分析され、その結果を基にして策定されなければなりません。

しかし、これまでに、過去の災害関連死の事例の分析は、ほとんど行われていません。

 

 

Aさんの件に戻ります。

Aさんの妻は、Aさんの死が災害関連死と認められたことで、ようやく災害弔慰金の支給を受けましたが、それまで、Aさんや妻は、「被災者」として扱われていませんでした。

被災者生活再建支援法では、「被災者」とは住居の被害を受けた者のことをいい、住居の被災を免れたAさんには、支援金は支給されなかったのです。

つまり、現行の被災者支援制度では、Aさんのような「生業を失った方」に対する支援が漏れてしまっているのです。

 

仮に、Aさんが存命中に、生業に対する支援として支援金が支給されていればどうだったでしょうか。

Aさんの焦りや不安は、少なからず、和らぎ、命を失うことはなかったかもしれません。

Aさんの死は、現行の被災者支援制度の問題点を炙り出しているのです。

被災者生活再建支援法に、生業に対する支援が盛り込まれれば、将来の災害で、Aさんと同じような立場の多くの人々を救うことができるかもしれません。

 

Aさんの事案だけでなく、あらゆる災害関連死の事案には、その死を防ぐための手がかりが残されています。

災害関連死は、被災後に苦しみ、無念にも命を落とされた方々の最期の声であり、将来の災害で同じ犠牲を生まないための遺訓が込められているのです。

 

ところで、災害関連死の事例は、災害弔慰金の支給主体である自治体が保有しており、これまで、国で統一的に収集されておらず、十分な分析もされていません。

これまで述べてきたとおり、過去の災害関連死の事例を集積し、分析していくことは、極めて重要で、それを縦断的、横断的に行うことができるのは、国以外にありません。

日本弁護士連合会は、2018年8月に、「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」を出し、事例の分析を実効的に行うために、調査機関を設置すること等を提言しましたが、国には今のところその動きは見られません。

 

私たちは、この災害大国に暮らす以上、いつ自分や家族が被災者の立場に置かれてもおかしくありません。

無念にも災害で命を落とされた方々の最期の声に耳を傾け、将来への遺訓とすることは、決して先送りの許されない、私たちの責務と言えるでしょう。

国によって、災害関連死の過去の事例の集積、分析が行われることを強く望みます。そのための活動を今後も続けていきたいと思います。

 

 

  東日本大震災から1年3か月後の陸前高田市内(2012年6月撮影)

 

 

(弁護士 在間文康)

3月11日 〜風の電話〜

今年もこの日が来ました。
もう7年も経ったのですね。当地ではあっという間だったという感覚をお持ちの方が多いかと思いますが、当職は、長かったなと感じています。

 

今日の岩手日報の全面広告「風の電話」は、良かったですね。
(ご存じでない方もおられるかもしれませんが、大槌町内に「風の電話」と名付けられた電話線の通っていない電話ボックスがあるのです。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E3%81%AE%E9%9B%BB%E8%A9%B1)

 

実は、当職は、この「風の電話」の場所に行ったことがありません。
当職は、震災で多くの依頼者や元依頼者の方々が亡くなるのを見ましたが、ごく親しい間柄では亡くなった人がいませんでした。
そのような当職がこの「風の電話」の場所に行くことは、単なる物見遊山になってしまうような気がして、憚られていたのですね。

 

もし、当職のごく親しい人が亡くなっていたとしたら、おそらく、当職は岩手に戻ってくることも無かったと思います。そのような余裕は無かったでしょう。

その一方で、岩手に戻り、震災でごく親しい親族や友人を亡くされた方に接すると、どうしても、立ち入れない聖域のような部分があることを感じるのです。物理的には被災地の中心に飛び込んでみた自分の立ち位置と、現地で被災された被災者の方々との心の距離感とのギャップは、この7年間ずっと感じていました。
昨今、「寄り添い」という言葉が頻繁に聞かれますが、本当に寄り添うなどと言うことは、全く容易ではないのですね。
当職のような、比較的余力のあった人間として出来たことは、せいぜい汗を流すことくらいであったと感じています。

 

今日から震災8年目に入りますが、気持ちを新たにして汗を流したいところです。
今後も当事務所を宜しくお願い致します。

 

(陸前高田 瀧上明)

3月9日のNHK「おばんですいわて」に出演しました 〜緊急小口資金の特例貸付について〜

 

陸前高田の瀧上です
3月9日のNHK盛岡の番組「おばんですいわて」に出演致しました。

 

緊急小口資金の特例貸付という、あまりメジャーではない制度について意見を求められたのですね。
この制度については陸前高田でも知らない方が多数おられると思いますが、簡単に言いますと、災害が発生した直後、被災者に対し、原則10万円を限度に貸し付けることが出来るというものです。社協が窓口になりますが、貸付の原資は国や県から出ています。

 

では、なぜこの制度が問題かと言いますと、非常に未返済率が高いのです。
阪神淡路大震災の時は半分近く、東日本大震災の時は3〜4割が未返済になっています。それぞれ数十億円単位の未返済があり、これだけ多額の未返済があると、貸付の制度としては破綻状態にあると考えてよいと思います。

 

その割には、議論がほとんど進んでいないのですね。

当職は、個人的には貸付ではなく給付(つまり、返済義務のない渡しきりのお金)にしてもよいように思いますが、不正受給の可能性を考えると、社会的なコンセンサスは必須でしょう。
いずれにせよ、今後も大災害のたびに問題となる制度ですので、今のうちから議論を深めておくべきではないかと考えています。

 

岩手日報に掲載されました

 

当職のインタビュー記事が、3月2日版の岩手日報に掲載されました。


震災7年を経た被災地の法的な問題点を、詰め込めるだけ詰め込んだような記事です。本当はもっとたくさん言いたいことはあるのですが・・・

 

結構、重要な指摘もさせていただいたつもりです。
例えば、国は「原状復旧」を非常に厳格に捉え、発展的な復興を阻害しているのではないか、とか、法律そのものが平時を予定しており緊急時には緊急時に即した仕組みが必要ではないか、等です。

 

震災7年を経て、そろそろ、東日本大震災の災害対応、復旧復興の振り返り、そして、これからの災害への教訓のまとめをしてゆく時期に入ってきているのではないでしょうか。

 

(陸前高田 瀧上明)

 

災害公営住宅の家賃増額(収入超過世帯)問題について

弁護士の在間です。

 

岩手県が災害公営住宅の収入超過世帯の家賃の減免制度を導入するとの報道がされました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26276620Z20C18A1L01000/

とても重要な問題ですので、長文になりますが、問題点を整理してみました。

 

  陸前高田市高田町の下和野災害公営住宅

 

 

一定の所得がある災害公営住宅への入居者の方の家賃に関して、現在、次のような仕組みが設けられています。

 

⑴ 月15万8000円を超える収入がある世帯は「収入超過世帯」とされる

 

⑵ 収入超過世帯は、入居後3年経過すると、_板造増額されるとともに、退去努力義務が課せられる

 

 

 

このような仕組みになっているのは、

 

・災害公営住宅はあくまでも一般の公営住宅制度の枠内の位置づけとされている(公営住宅法の規制に従う)

 

・一般の公営住宅は低所得の世帯が入居することを前提としており、月収15万8000円を超える世帯が入居することは原則として予定されていない

 

・そうすると、収入超過世帯は本来、災害公営住宅に入居することはできないが、震災で大きな被害を受けた地域では収入にかかわらず住む場所に困る人が出てくるので、災害公営住宅を整備して、収入超過世帯も入居できるようにした

 

・しかし、あくまでも公営住宅なので、入居後3年を経過したら、一般の公営住宅の本来のルールに合わせ、収入超過世帯については、_板造鯀額し、退去努力義務を課す

 

という理屈です。

 

 

 

この仕組みでは、次のような問題が起こります。

 

・自宅を失った被災世帯がその地域で住み続けたいと考えた場合、住居の選択肢は、主に、「自力で再建する」、「民間賃貸住宅を借りる」、「災害公営住宅に入居する」という3つになりますが、様々な事情で自力再建を断念せざるを得なかった被災世帯としては、民間賃貸住宅か災害公営住宅かの2択になります。

 

・その地域で、民間賃貸住宅が充実していれば、2つの選択肢を保てますが、東日本大震災の被災地域の中には、民間賃貸住宅が十分に供給されていない地域があります。震災前の民間賃貸住宅のオーナーの多くもまた被災者で、彼らが賃貸事業を再開するにあたっての支援がほとんどないという点もその一要素となっています。

 

・そういった地域では、被災世帯としては、災害公営住宅への入居しか選択肢がなくなります。

 

・そのような状況の中、月収15万8000円を超える世帯は、入居後3年を経過したら、_板造料額、退去努力義務を課されることになります。

 

・_板造料額の幅は、世帯の所得や間取り等によって異なりますが、「近傍同種家賃」に設定されます。この近傍同種家賃という単語がくせ者で、文字通り読むと、周囲のアパートの家賃と同じくらいの金額になると感じますが、実は、建設コストや将来の修繕費用等の諸要素を基に政令の規定に従って計算されることになっており、地域によっては、近隣のアパートの家賃とは大きくかけ離れた金額になる可能性があります。

 

・そうすると、家賃が上がったことによって、災害公営住宅に住み続けるのが困難となった収入超過世帯が、生活を維持しようとすると、民間賃貸住宅の供給が豊富な非被災地へと転出せざるを得なくなります。つまり、被災地からの人口流出、それも、地域の復興の担い手になる(行政から見ても税金をしっかりと払ってくれそうな)世帯が被災地から離れて行ってしまうことになります。

 

誰も得をしない、非常に残念な結末です。

 

 

 

今回の岩手県の減免制度の創設は、冒頭に書いた仕組みのうち⑵の △弔泙蝓⊆入超過世帯の増額となる家賃の上げ幅を、できるだけ少なくするという施策です。

記事を読む限り、最大でも月額7万7400円の家賃に抑えるということのようです。

 

収入超過世帯とされる方にとっては、家賃の値上げに対して非常に強い不安を感じていらっしゃったでしょうから、この減免制度が創設されたことは、ひとまず、良かったと思います。

引き続き、早期に、他の自治体(市町村)においても、減免制度を創設し、周知していただきたいと思います。

 

 

 

とはいえ、今回の減免制度によって、根本的な問題が解決されたとは言えないでしょう。

冒頭の仕組みの⑵の◆⊆入超過世帯の退去努力義務は課されたままだからです。

 

今の被災地の状況で、自治体が、収入超過世帯に退去を求めることは、現実にはないと思いますが、それが明確にされたわけではありません。

法令上退去努力義務は課されるが、事実上退去は求めない、とされているに過ぎません。

 

また、減免とはいえ、収入超過世帯とされた方達の家賃は上がります。被災地を取り巻く状況は未だ厳しく、他の住宅の選択肢がない中で、家賃が上がっていくことの経済的・精神的負担は小さくありません。

 

少なくとも、現段階では、最初に設定された家賃の金額に据え置くべきと考えます。

 

 

 

そうすると、減免制度による家賃値上げ幅の縮小化という対処に留まらず、収入超過世帯のラインを引き上げるという方向が望ましいのではないでしょうか。

 

法令上、自治体は、地域の特殊事情に応じて、収入超過世帯の基準を月収15万8000円から25万9000円まで、条例を制定して引き上げることが可能です。

つまり、条例を改正して、収入超過世帯の基準を25万9000円と設定すれば、それ以下の収入の方について、家賃の値上げはされませんし、退去努力義務が課されることもありません。

 

少なくとも、地域の民間賃貸住宅の供給事情が改善するまで(災害公営住宅以外の住まいの選択肢が生まれるまで)は、このような措置をとるのが適切だと思います(併せて、25万9000円を超える月収の方についての手当ても必要になります)。

 

地方議会の議員の先生方には、地域の住宅供給状況をよく調査し、被災者の声を聞き、地域の特性に応じた規定を検討してもらいたいと思います(これは、行政の問題ではなく、立法の問題です)。

 

 

 

また、もう一歩進んで考えた場合、そもそも、東日本大震災のように、地域の住宅供給事情を一変させてしまうような災害があった場合に、災害公営住宅の位置づけを、一般の公営住宅のルールの枠内に収めるのは相当無理があるように思います。

 

住宅供給政策の中に災害公営住宅をどのように位置づけるべきか、再検討される必要があります。

 

例えば、民間賃貸の事業者に対する支援についても、一体的に検討されるべきではないでしょうか。

 

 

 

なお、岩手県には特殊な事情があります。

 

岩手県内の被災市町村の多くでは、「市営(町営、村営)」の災害公営住宅と、「県営」の災害公営住宅の両方が整備されています。

そして、その家賃の設定等のルールは、市(町、村)の条例、県の条例でそれぞれ整備されているため、岩手県が減免制度を創設しても、それは県営の災害公営住宅にのみ適用されることになります。

 

もっとも、岩手県と県内の市町村は、この問題について、密に連携を取っているようですから、おそらく、近いうちに、県内の市町村においても、同様の減免制度が創設され、市営(町営、村営)の災害公営住宅でも同じような扱いとなると思われます

 

しかし、県全体で見たときに、市町村によって復興のスピードはそれぞれです。被害が大きかった陸前高田市では未だに民間賃貸住宅の供給は全く追いついていませんが、他の市町村では、民間賃貸住宅の空きが見られ始めたという話もあるようです。

民間賃貸住宅の供給が十分な地域においては、災害公営住宅の収入超過世帯の家賃を低く設定しすぎると、民業圧迫という問題も出かねません。

 

そのような事情の中、岩手県は、難しい調整を経て、今回の減免制度を策定したはずで、担当部署の方は、大変苦心されたのではないでしょうか。

 

とはいえ、県営と市営(町営、村営)の災害公営住宅を同じ市町村内に整備すると決定した段階で、このような問題が起こることは、容易に想像できたはずです。

整備する市町村毎に、その地域の復興のスピードに応じた柔軟なルールをこれまで準備できていなかったこと自体、災害公営住宅の位置づけに関する検討が十分でなかったことを示しているのかもしれません。

 

 

 

いずれにしても、この問題は、将来大きな災害が起こった際に、繰り返されるおそれがあります。

災害後の住まいの問題は、誰もが直面し得る問題ですので、多くの方に当事者意識をもって考えていただきたい問題です。

 

 

(弁護士 在間文康)