1. HOME
  2. ブログ

ブログAlways blue skies behind the clouds

災害と弁護士

東京事務所の在間です。

 

今日9月11日は東日本大震災から12年6か月の月命日でした。

9月1日は関東大震災から100年の節目ということもあり、例年よりも多く災害関係の報道がされたように感じます。

遠くモロッコでは、9月8日に発生した大きな地震で、多くの方が命を落とし、人命救助のタイムリミットとされる72時間を迎えようとしています。一人でも多くの方の命が救われ、1日も早く日常生活を取り戻されることを祈るばかりです。

 

さて、先日、東京大学新聞に、陸前高田での活動を中心に、インタビュー記事を掲載していただきました。

https://www.todaishimbun.org/zaimasaninterview_20230905/

東京大学新聞は、インタビュー、編集、撮影、全てを学生さんが担っておられるということで、僕自身も非常に初々しい気持ちでお話しすることができました。

 

        

 

「災害問題に取り組んでいます」とお話しすると、「災害問題に弁護士?」ときょとんとされることがしばしばあります。

もちろん、被災ローン(二重ローン)の問題や災害関連死の問題、災害後の相続の問題など、法的な要素の濃い問題では、弁護士が登場する分野と思い浮かぶかもしれませんが、そういったこと以外は守備範囲外と思われることが多いのではないでしょうか。

 

実は、災害後に弁護士が役に立てる分野は意外と広いです。

例えば、災害後、被災者のみなさんは多くのものを失い、将来に大きな不安を感じられます。

しかし、何から手を付ければいいのか、目指すべき生活再建はどのようなものなのか、直面している問題の核心がわからず、誰に何を相談していいかもわからないという状態に置かれる方も多くおられます。

そのようなときに、問題点を整理し、進むべき方向を一緒に考える存在として、弁護士は結構役に立つことができます。

 

東日本大震災後、徐々に、「災害ケースマネジメント」という言葉が広がっています。

災害ケースマネジメントとは、「被災者一人ひとりに必要な支援を行うため、被災者に寄り添い、その個別の被災状況・生活状況などを把握し、それに合わせて様々な支援策を組み合わせた計画を立てて、連携して、支援するしくみ」を言います。

被災者一人ひとりに合ったオーダーメイドの生活再建を、行政や民間支援団体、士業が連携して支えていく仕組みです。

災害ケースマネジメントは、国の政策としても盛り込まれるようになり、各地の取組事例集や実施の手引きがとりまとめられて公表されています。

https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/case/index.html

この中に、弁護士も重要な役割を担うプレーヤーとして、取り上げられています。

 

災害はある日突然やってきます。

もし、災害に遭ってしまい、誰に何を相談していいかわからなくなってしまったとき、ぜひ弁護士に相談してみようと思っていただけばと思います。

 

(弁護士 在間文康)

自然災害義援金差押禁止法の成立

東京事務所の在間です。

 

本日、参議院本会議にて、「自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律」が成立しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210604/k10013067431000.html

 

この法律は、あらゆる自然災害の被災者に交付される義援金の差押えを禁止して、被災者が生活再建のために使えるようにするという、とてもシンプルな内容の法律です。

極めて当たり前のことで、これまでこの法律がなかったことに驚かれる方もおられるかもしれません。

実は、これまでは、非常に大きな災害が起こったときに、その都度、個別に特別立法がされ、その災害での義援金の差押えを禁止するという対策がとられていました。

ちなみに、これまでに特別立法がされたのは、東日本大震災や熊本地震、大阪北部地震など、たった5回だけでした。

 

平成30年の北海道胆振東部地震など、大きな被害が生じたのに、この特別立法がされなかった災害は数多くあり、その災害では、被災者に交付された義援金の差押えが禁止されませんでした。

また、被災ローンに苦しむ被災者の方が、自然災害債務整理ガイドラインなどを利用して債務整理をしようとしたときに、特別立法がないために、受け取った義援金を返済に充てざるを得ないというケースもありました。

つまり、特別立法がされなかった災害では、せっかく配分された義援金が被災者の生活再建の糧として使えないことになってしまいかねない状態でした。

 

災害の規模や地域、時期にかかわらず、災害という不慮の事態に遭った被災者の方々の苦しみは変わらないにもかかわらず、災害毎に取扱いが変わってしまうことは、不公平以外の何ものでもありません。

また、義援金の原資は全国から寄せられる、善意の寄附です。寄附をした方からしても、せっかくの寄附が被災者の生活再建に活用されないとしたら、この上なく残念に思われるはずです。

 

私が所属している日弁連の災害復興支援委員会では、この問題を指摘し、解消されるよう取り組んできました。

昨年1月17日には、日弁連から「災害を対象とした義援金の差押えを禁止する一般法の制定を求める意見書」を発出し、国会議員の先生や関係省庁を巡ってロビイング活動をし、一般法の制定を求めてきました。

 

その成果がようやく実り、本日、「自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律」の成立の日を迎えることができました。

 

冒頭で述べたとおり、非常にシンプルで、誰が見ても当然の内容ですが、立法に至るまではハードルがいくつもありました(詳しくは書けませんが、耳を疑うような反対意見を述べられる方もいました)。

ここまでたどり着くのには、日弁連の災害復興支援委員会のメンバーや国会議員の先生方など、本当に多くの方々のご尽力がありました。

特に、若松謙維議員を中心とする公明党のプロジェクトチームの先生方のご尽力は非常に大きく、反対意見を全て跳ね返し、立法まで導いてくださいました。本当に感謝の念に尽きません。

 

今後は、あらゆる自然災害で、不幸にも被害に遭われた被災者の方々が、安心して、義援金を生活再建の資として活用することができます。

 

私自身、災害復興支援委員会の一員として、意見書の起案やロビイング活動など、力を入れて携わってきたこともあり、この法律が成立したことをとても嬉しく思います。

今日の参議院での議決にあたり、日弁連の災害支援復興援委員会を代表して、法案成立の議会を傍聴させていただくことができました。

 

 

 

議場におられる議員の方々全員が一斉に立ち上がり(挙手し)、賛成をされたときの光景(「サンセー!」という大きな声も聞こえました)は、これまでの経過を振り返ると感無量の一言でした。

そして、本会議後、参議院災害対策特別委員会委員長の新妻秀規議員より、本会議での報告の際に読み上げられた貴重な原稿までいただいてしまいました。

 

 

 

被災者支援制度の改善は、なかなか思うようにいかないことが多いですが、今回の立法のように、一歩一歩ながら着実に進んでいると実感しました。

まだまだ改善しなければならないことが山積しています。これからも諦めずに取り組んでいきたいと思います。

 

(弁護士 在間文康)

災害関連死 〜声なき声を遺訓とするために〜

東京事務所の在間です。

 

東日本大震災から、8年と5か月が経過しました。

私は、これまでに、数多くの災害関連死(震災関連死)の問題に接してきました。

災害関連死に関しては、多くの報道がされていますが、重要な問題が見過ごされているように感じています。

 

 

災害関連死について考えるとき、私にとって特に印象深いある男性(「Aさん」とします)の件があります。

 

Aさんは、東日本大震災の津波被害で自営していた店舗を失いました。

高台の住居は被災を免れましたが、収入の一切が絶たれてしまいました。

事業ローンや子ども達の進学費用、生活費を捻出しなければならず、店舗の早期再開を目指しましたが、被災した市内で用地を確保することはままならず、時間だけが経過していきました。

Aさんは、焦り、不安などのストレスから、不眠に陥り、持病の高血圧症も急激に悪化していきました。そして、震災から9か月後、Aさんは心筋梗塞が原因で亡くなられました。

 

Aさんの妻は、Aさんの死は「災害関連死」にあたるのではないかと考え、災害弔慰金の申請を行いました。しかし、市からは、Aさんには震災前から既往症があったなどの理由で、申請を却下されてしまいました。

Aさんの妻は、納得ができず、訴訟を提起しました。

訴訟では、既往症があったとしても、震災によるストレスがそれを悪化させ、死に繋がったとの裁判所の判断が下されて、最終的に災害関連死と認められました。

Aさんの妻は、最初の申請から約3年の時を経て、ようやく、震災で亡くなった者の遺族として扱われるようになりました。

 

 

災害弔慰金の支給等に関する法律3条は、「災害により」死亡した者の遺族に対して災害弔慰金を支給すると定めており、直接死に限定せず、死亡と災害の間の関連性(災害関連性)が認められれば、関連死も対象とされます。

災害関連性の有無は、自治体に設置された審査会において判断されることになりますが、多くの事例で、死亡の原因が、災害によるのか、その他の要因によるのかの境界があいまいで、その判断は容易ではありません。

私自身、ある自治体で審査会の委員を務めていましたが、災害関連性の有無の判断は、本当に難しく、悩むことばかりでした。

 

そのため、災害関連性の判断のばらつきを防止するために、統一基準が策定されるべきであるという声があります。

しかし、私は、「基準ができれば、正しい判断ができるようになるはずだ」と安直に捉えている見解には違和感を覚えます。

災害の種類や規模、地域によって、被災者が受ける影響は千差万別です。例えば、新潟県中越地震では発災から3年2か月後には仮設住宅の入居者数はゼロとなったのに対し、東日本大震災では発災から8年が経過してもなお3000人以上の被災者が仮設住宅での生活を余儀なくされています。

また、個々の事案毎に、死因や災害前後の生活状況、災害で生じた被害など、災害から死亡に至る経緯は多種多様で、同一の案件は一つもありません。

この災害関連死の特性を無視して、安易に基準を策定し、個々の事案に当てはめようとすると、かえって、実態に即さない不当な認定結果を導くおそれが強いと思うのです。

 

審査基準を設けるのであれば、少なくとも、過去の災害関連死の事例が十分に分析され、その結果を基にして策定されなければなりません。

しかし、これまでに、過去の災害関連死の事例の分析は、ほとんど行われていません。

 

 

Aさんの件に戻ります。

Aさんの妻は、Aさんの死が災害関連死と認められたことで、ようやく災害弔慰金の支給を受けましたが、それまで、Aさんや妻は、「被災者」として扱われていませんでした。

被災者生活再建支援法では、「被災者」とは住居の被害を受けた者のことをいい、住居の被災を免れたAさんには、支援金は支給されなかったのです。

つまり、現行の被災者支援制度では、Aさんのような「生業を失った方」に対する支援が漏れてしまっているのです。

 

仮に、Aさんが存命中に、生業に対する支援として支援金が支給されていればどうだったでしょうか。

Aさんの焦りや不安は、少なからず、和らぎ、命を失うことはなかったかもしれません。

Aさんの死は、現行の被災者支援制度の問題点を炙り出しているのです。

被災者生活再建支援法に、生業に対する支援が盛り込まれれば、将来の災害で、Aさんと同じような立場の多くの人々を救うことができるかもしれません。

 

Aさんの事案だけでなく、あらゆる災害関連死の事案には、その死を防ぐための手がかりが残されています。

災害関連死は、被災後に苦しみ、無念にも命を落とされた方々の最期の声であり、将来の災害で同じ犠牲を生まないための遺訓が込められているのです。

 

ところで、災害関連死の事例は、災害弔慰金の支給主体である自治体が保有しており、これまで、国で統一的に収集されておらず、十分な分析もされていません。

これまで述べてきたとおり、過去の災害関連死の事例を集積し、分析していくことは、極めて重要で、それを縦断的、横断的に行うことができるのは、国以外にありません。

日本弁護士連合会は、2018年8月に、「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」を出し、事例の分析を実効的に行うために、調査機関を設置すること等を提言しましたが、国には今のところその動きは見られません。

 

私たちは、この災害大国に暮らす以上、いつ自分や家族が被災者の立場に置かれてもおかしくありません。

無念にも災害で命を落とされた方々の最期の声に耳を傾け、将来への遺訓とすることは、決して先送りの許されない、私たちの責務と言えるでしょう。

国によって、災害関連死の過去の事例の集積、分析が行われることを強く望みます。そのための活動を今後も続けていきたいと思います。

 

 

  東日本大震災から1年3か月後の陸前高田市内(2012年6月撮影)

 

 

(弁護士 在間文康)

3月11日 〜風の電話〜

今年もこの日が来ました。
もう7年も経ったのですね。当地ではあっという間だったという感覚をお持ちの方が多いかと思いますが、当職は、長かったなと感じています。

 

今日の岩手日報の全面広告「風の電話」は、良かったですね。
(ご存じでない方もおられるかもしれませんが、大槌町内に「風の電話」と名付けられた電話線の通っていない電話ボックスがあるのです。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E3%81%AE%E9%9B%BB%E8%A9%B1)

 

実は、当職は、この「風の電話」の場所に行ったことがありません。
当職は、震災で多くの依頼者や元依頼者の方々が亡くなるのを見ましたが、ごく親しい間柄では亡くなった人がいませんでした。
そのような当職がこの「風の電話」の場所に行くことは、単なる物見遊山になってしまうような気がして、憚られていたのですね。

 

もし、当職のごく親しい人が亡くなっていたとしたら、おそらく、当職は岩手に戻ってくることも無かったと思います。そのような余裕は無かったでしょう。

その一方で、岩手に戻り、震災でごく親しい親族や友人を亡くされた方に接すると、どうしても、立ち入れない聖域のような部分があることを感じるのです。物理的には被災地の中心に飛び込んでみた自分の立ち位置と、現地で被災された被災者の方々との心の距離感とのギャップは、この7年間ずっと感じていました。
昨今、「寄り添い」という言葉が頻繁に聞かれますが、本当に寄り添うなどと言うことは、全く容易ではないのですね。
当職のような、比較的余力のあった人間として出来たことは、せいぜい汗を流すことくらいであったと感じています。

 

今日から震災8年目に入りますが、気持ちを新たにして汗を流したいところです。
今後も当事務所を宜しくお願い致します。

 

(陸前高田 瀧上明)

3月9日のNHK「おばんですいわて」に出演しました 〜緊急小口資金の特例貸付について〜

 

陸前高田の瀧上です
3月9日のNHK盛岡の番組「おばんですいわて」に出演致しました。

 

緊急小口資金の特例貸付という、あまりメジャーではない制度について意見を求められたのですね。
この制度については陸前高田でも知らない方が多数おられると思いますが、簡単に言いますと、災害が発生した直後、被災者に対し、原則10万円を限度に貸し付けることが出来るというものです。社協が窓口になりますが、貸付の原資は国や県から出ています。

 

では、なぜこの制度が問題かと言いますと、非常に未返済率が高いのです。
阪神淡路大震災の時は半分近く、東日本大震災の時は3〜4割が未返済になっています。それぞれ数十億円単位の未返済があり、これだけ多額の未返済があると、貸付の制度としては破綻状態にあると考えてよいと思います。

 

その割には、議論がほとんど進んでいないのですね。

当職は、個人的には貸付ではなく給付(つまり、返済義務のない渡しきりのお金)にしてもよいように思いますが、不正受給の可能性を考えると、社会的なコンセンサスは必須でしょう。
いずれにせよ、今後も大災害のたびに問題となる制度ですので、今のうちから議論を深めておくべきではないかと考えています。