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災害公営住宅の家賃増額(収入超過世帯)問題について

弁護士の在間です。

 

岩手県が災害公営住宅の収入超過世帯の家賃の減免制度を導入するとの報道がされました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26276620Z20C18A1L01000/

とても重要な問題ですので、長文になりますが、問題点を整理してみました。

 

  陸前高田市高田町の下和野災害公営住宅

 

 

一定の所得がある災害公営住宅への入居者の方の家賃に関して、現在、次のような仕組みが設けられています。

 

⑴ 月15万8000円を超える収入がある世帯は「収入超過世帯」とされる

 

⑵ 収入超過世帯は、入居後3年経過すると、_板造増額されるとともに、退去努力義務が課せられる

 

 

 

このような仕組みになっているのは、

 

・災害公営住宅はあくまでも一般の公営住宅制度の枠内の位置づけとされている(公営住宅法の規制に従う)

 

・一般の公営住宅は低所得の世帯が入居することを前提としており、月収15万8000円を超える世帯が入居することは原則として予定されていない

 

・そうすると、収入超過世帯は本来、災害公営住宅に入居することはできないが、震災で大きな被害を受けた地域では収入にかかわらず住む場所に困る人が出てくるので、災害公営住宅を整備して、収入超過世帯も入居できるようにした

 

・しかし、あくまでも公営住宅なので、入居後3年を経過したら、一般の公営住宅の本来のルールに合わせ、収入超過世帯については、_板造鯀額し、退去努力義務を課す

 

という理屈です。

 

 

 

この仕組みでは、次のような問題が起こります。

 

・自宅を失った被災世帯がその地域で住み続けたいと考えた場合、住居の選択肢は、主に、「自力で再建する」、「民間賃貸住宅を借りる」、「災害公営住宅に入居する」という3つになりますが、様々な事情で自力再建を断念せざるを得なかった被災世帯としては、民間賃貸住宅か災害公営住宅かの2択になります。

 

・その地域で、民間賃貸住宅が充実していれば、2つの選択肢を保てますが、東日本大震災の被災地域の中には、民間賃貸住宅が十分に供給されていない地域があります。震災前の民間賃貸住宅のオーナーの多くもまた被災者で、彼らが賃貸事業を再開するにあたっての支援がほとんどないという点もその一要素となっています。

 

・そういった地域では、被災世帯としては、災害公営住宅への入居しか選択肢がなくなります。

 

・そのような状況の中、月収15万8000円を超える世帯は、入居後3年を経過したら、_板造料額、退去努力義務を課されることになります。

 

・_板造料額の幅は、世帯の所得や間取り等によって異なりますが、「近傍同種家賃」に設定されます。この近傍同種家賃という単語がくせ者で、文字通り読むと、周囲のアパートの家賃と同じくらいの金額になると感じますが、実は、建設コストや将来の修繕費用等の諸要素を基に政令の規定に従って計算されることになっており、地域によっては、近隣のアパートの家賃とは大きくかけ離れた金額になる可能性があります。

 

・そうすると、家賃が上がったことによって、災害公営住宅に住み続けるのが困難となった収入超過世帯が、生活を維持しようとすると、民間賃貸住宅の供給が豊富な非被災地へと転出せざるを得なくなります。つまり、被災地からの人口流出、それも、地域の復興の担い手になる(行政から見ても税金をしっかりと払ってくれそうな)世帯が被災地から離れて行ってしまうことになります。

 

誰も得をしない、非常に残念な結末です。

 

 

 

今回の岩手県の減免制度の創設は、冒頭に書いた仕組みのうち⑵の △弔泙蝓⊆入超過世帯の増額となる家賃の上げ幅を、できるだけ少なくするという施策です。

記事を読む限り、最大でも月額7万7400円の家賃に抑えるということのようです。

 

収入超過世帯とされる方にとっては、家賃の値上げに対して非常に強い不安を感じていらっしゃったでしょうから、この減免制度が創設されたことは、ひとまず、良かったと思います。

引き続き、早期に、他の自治体(市町村)においても、減免制度を創設し、周知していただきたいと思います。

 

 

 

とはいえ、今回の減免制度によって、根本的な問題が解決されたとは言えないでしょう。

冒頭の仕組みの⑵の◆⊆入超過世帯の退去努力義務は課されたままだからです。

 

今の被災地の状況で、自治体が、収入超過世帯に退去を求めることは、現実にはないと思いますが、それが明確にされたわけではありません。

法令上退去努力義務は課されるが、事実上退去は求めない、とされているに過ぎません。

 

また、減免とはいえ、収入超過世帯とされた方達の家賃は上がります。被災地を取り巻く状況は未だ厳しく、他の住宅の選択肢がない中で、家賃が上がっていくことの経済的・精神的負担は小さくありません。

 

少なくとも、現段階では、最初に設定された家賃の金額に据え置くべきと考えます。

 

 

 

そうすると、減免制度による家賃値上げ幅の縮小化という対処に留まらず、収入超過世帯のラインを引き上げるという方向が望ましいのではないでしょうか。

 

法令上、自治体は、地域の特殊事情に応じて、収入超過世帯の基準を月収15万8000円から25万9000円まで、条例を制定して引き上げることが可能です。

つまり、条例を改正して、収入超過世帯の基準を25万9000円と設定すれば、それ以下の収入の方について、家賃の値上げはされませんし、退去努力義務が課されることもありません。

 

少なくとも、地域の民間賃貸住宅の供給事情が改善するまで(災害公営住宅以外の住まいの選択肢が生まれるまで)は、このような措置をとるのが適切だと思います(併せて、25万9000円を超える月収の方についての手当ても必要になります)。

 

地方議会の議員の先生方には、地域の住宅供給状況をよく調査し、被災者の声を聞き、地域の特性に応じた規定を検討してもらいたいと思います(これは、行政の問題ではなく、立法の問題です)。

 

 

 

また、もう一歩進んで考えた場合、そもそも、東日本大震災のように、地域の住宅供給事情を一変させてしまうような災害があった場合に、災害公営住宅の位置づけを、一般の公営住宅のルールの枠内に収めるのは相当無理があるように思います。

 

住宅供給政策の中に災害公営住宅をどのように位置づけるべきか、再検討される必要があります。

 

例えば、民間賃貸の事業者に対する支援についても、一体的に検討されるべきではないでしょうか。

 

 

 

なお、岩手県には特殊な事情があります。

 

岩手県内の被災市町村の多くでは、「市営(町営、村営)」の災害公営住宅と、「県営」の災害公営住宅の両方が整備されています。

そして、その家賃の設定等のルールは、市(町、村)の条例、県の条例でそれぞれ整備されているため、岩手県が減免制度を創設しても、それは県営の災害公営住宅にのみ適用されることになります。

 

もっとも、岩手県と県内の市町村は、この問題について、密に連携を取っているようですから、おそらく、近いうちに、県内の市町村においても、同様の減免制度が創設され、市営(町営、村営)の災害公営住宅でも同じような扱いとなると思われます

 

しかし、県全体で見たときに、市町村によって復興のスピードはそれぞれです。被害が大きかった陸前高田市では未だに民間賃貸住宅の供給は全く追いついていませんが、他の市町村では、民間賃貸住宅の空きが見られ始めたという話もあるようです。

民間賃貸住宅の供給が十分な地域においては、災害公営住宅の収入超過世帯の家賃を低く設定しすぎると、民業圧迫という問題も出かねません。

 

そのような事情の中、岩手県は、難しい調整を経て、今回の減免制度を策定したはずで、担当部署の方は、大変苦心されたのではないでしょうか。

 

とはいえ、県営と市営(町営、村営)の災害公営住宅を同じ市町村内に整備すると決定した段階で、このような問題が起こることは、容易に想像できたはずです。

整備する市町村毎に、その地域の復興のスピードに応じた柔軟なルールをこれまで準備できていなかったこと自体、災害公営住宅の位置づけに関する検討が十分でなかったことを示しているのかもしれません。

 

 

 

いずれにしても、この問題は、将来大きな災害が起こった際に、繰り返されるおそれがあります。

災害後の住まいの問題は、誰もが直面し得る問題ですので、多くの方に当事者意識をもって考えていただきたい問題です。

 

 

(弁護士 在間文康)