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奄美市立中学校生徒の死亡事案に関する遺族コメント

 「平成27年11月奄美市立中学校生徒の死亡事案(以下「本件」といいます。)に関する第三者調査委員会」(以下「第三者調査委員会」といいます。)の調査報告が奄美市長及び遺族に報告され,同内容が調査報告書(公表版)(以下「本報告書」といいます。)として第三者調査委員会から奄美市ホームページにて公表されました。

 この報告公表を受けて,平成30年12月11日,遺族は鹿児島県庁記者クラブにて記者会見を行いました。同会見を踏まえて,各報道機関から報道があったところですが,一部放送局(MBC南日本放送)のニュース番組にて誤った報道がなされるなど,遺族の真意やおもいが適切に報道されていないところです。そこで,ご遺族の希望と同意のもと,記者会見での遺族コメント及び遺族代理人コメントをここに掲載します。


【生徒遺族・父親のコメント】

はじめに

 息子が亡くなり3年と1ヶ月が経ちました。今でも息子が亡くなったことを信じることが出来ません。息子が亡くなってからこれまで、何故息子は自殺したのかという疑問が消えたことはありません。

 私たち遺族は、平成27年12月に学校から基本調査の報告を受けました。基本調査報告では自殺の原因を特定することはできなかったとの結論でした。その内容と結論に、私たちは納得できず学校と何度も話をしました。しかし、納得のいく答えはなく、指導の中身について議論する様子も見られなかったため、学校への不信感が募っていきました。そのため熟考に熟考を重ね、私たちは、平成28年5月、奄美市に対し詳細調査の実施を要望し、第三者調査委員会が設置されました。平成29年5月14日に第1回の調査委員会が開かれ、一昨日12月9日に奄美市第三者調査委員会から調査報告書を受け取りました。報告書を何度も読み返して、その内容はとても良い報告書だと感じます。なぜ良い報告書だと感じたかということが大きく3点あります。

 1つ目は調査委員会が公平性中立性を保ちながらも息子に寄り添い丁寧に調査をしてくれたこと。

 2つ目は私たち遺族の疑問に答えてくれたこと。

 3つ目は調査で判明した事実をもとに、今後二度とこのような事件が起きないための再発防止の提言を出してくれたことです。

 

調査委員会が息子に寄り添い丁寧に調査をしてくれたこと

 委員の方々は遠い奄美大島へ何度も足を運んでいただきました。息子が生まれてからのことについて色々と耳を傾けていただき、これまで生きてきた証である息子の遺品や写真に至るまで目をとおしてくださいました。また学校や奄美市教委からの提供された膨大な資料にもしっかりと目を通してくださいました。聞き取り調査では、私たち遺族だけでなくBくんを含む息子の友達や同級生そして保護者、先生方の話をしっかりと聴いていただいた印象を持っています。これらのことは、この調査報告書全体に表れていると思います。また、息子が最期に残した遺書についても、文面だけでなく書かれた字の状態も含めて、当時の息子の心の内がわかる丁寧な検証をしていただいたと思います。

私たち遺族の疑問に答えてくれたこと

 私には息子の自殺に大きな疑問点が2つありました。

 1つ目は、学校からは、息子はいじめと思われる件で指導を受けたと説明されていたことです。本当に息子は人の精神を傷つけるほどのいじめや嫌がらせをしたのか。

 2つ目は、なぜ息子は、自殺をして罪を償うというところまで追い込まれなければならなかったのかということです。この2つの疑問に調査委員会は答えてくれました。

 1つ目の疑問に対して、報告書46頁「(2)Aさんの行為が「いじめ」に当たるか」という項目、48頁1行目に報告されているとおり、「これらの事実を前提にすると、Aさんの発言を「いじめ」と認定することはできない。」と認定されており、息子がいじめをしていた訳ではないと安堵しました。

 2つ目の疑問に対して、報告書35頁以下「第3自殺に至るまでの背景と当該中学校における指導の検証」、報告書56頁以下「第4本件自殺の心理的考察」で報告されている内容を読むことで、息子がどのように自殺に追い詰められていったのかを知ることができました。

調査で判明した事実をもとに、今後二度とこのような事件が起きないための再発防止の提言を出してくれたこと。

 今回の第三者調査委員会の調査では、私たちの知らない学校、市教委の姿、事後対応の内容が新たな事実としてわかりました。

 まず、Bさんに関わる報告書40頁以下「(2)Bさんの事情を把握していないこと」、報告書48頁以下「(3)Bさんに対する対応の不適切さ」、報告書78頁以下「5学校の不適切な指導を生徒のせいにして正当化しようとしたこと」で報告されている内容です。この部分を読んで、X教諭のBさんへの対応が友達関係をより悪化させていると感じます。Bさんも本事案の被害者の1人と思います。次に、報告書37頁以下「(4)教員による体罰(暴力)や暴言」で報告されている体罰の内容です。体罰(暴力)は法律で禁止のはずが、実際には体罰が行われていたということに驚愕しました。特に、教卓をバーンと倒した。たばこの吸い殻の入ったコーヒー缶を顔付近めがけて投げた。椅子を投げられ怒鳴られ「このことは一生忘れるなよ。」「親に言えるもんなら言ってみろ。」という行為や発言は、ただの脅迫で子どもたちに恐怖心を植え付けるだけで子どもへの悪影響しかありません。息子が先生の目を見るのが怖いと言っていたのが理解できます。

 次に、報告書68頁以下「2 市教委が一夜にして経緯を「いじめ」と断定したこと」で報告されている、臨時校長研修会の内容と「報道発表想定問答」の内容です。この一夜にして経緯を「いじめ」と断定したことには、遺族として非常に憤りを感じます。

おわりに

 私たち遺族は、この事件が起きるまでまさか息子が自殺をするなんて夢にも思っていませんでした。テレビで流れるいじめ自殺のニュースを他人事のように見ていたのが正直なところです。息子は前日までサッカーの試合に出て、前夜もたわいもない話をしながらご飯を食べ、宿題をしていました。家族にとってはいつもどおりの日常でした。しかし翌日担任の家庭訪問を境にまったく違う日常に一変してしまいました。

 息子の自殺は私たち家族だけではなく、友人たちや保護者、先生方まで誰も予期せぬことでした。また事件直後にある保護者から聞いた話では、息子の友人が「もし同じ立場だったら自分だったかも」と言っていたそうです。報告書の72頁で報告されているように、11月5日の臨時保護者会での学校と保護者のやりとりのなかで、ある母親が「このようなことがどこの子にも起こりうるということではないか。」と発言しています。この発言のように、今回のような指導が生徒を追い詰めるという事件は、どこでも起こりうる可能性があります。現に息子が亡くなったあとにも、報道で知る限り広島県府中町、福井県池田町そして鹿児島市、息子と同じように先生の指導後に子どもが自殺をするという事例が発生しています。このような悲しい事件が起きないように、今回出された再発防止の各提言を確実に実行し、二度と息子のような悲しい事件が起きないようにしてください。

 最後になりましたが、この調査をしてくださった調査委員の方々や奄美市の事務局の方々、また調査に協力してくださった息子の友達や同級生そして保護者の方々、先生方、奄美市教育委員会の方々に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

以  上


【遺族代理人弁護士鈴木穂人のコメント】

 このようなご遺族のおもいは,当初から「真相究明」「再発防止」にありました。ご遺族は損害賠償請求訴訟など当事者や関係者に対する責任追及は考えていません。それらを踏まえて,一昨日の報告公表に対する評価などについて,弁護士である私からコメントをさせて下さい。ポイントは5つあります。

文科省背景調査指針の趣旨・目的・目標に適うものであること

 まず1つ目のポイント。本報告書が,文科省背景調査指針の趣旨・目的・目標に適うものであること。それは全国で実施されている第三者調査委員会と比較しても十分に評価できます。このような第三者調査委員会の設置と活動が鹿児島県内,奄美市で実現したことにも意義があります。この奄美市での成果は全国のモデルになり得ると思います。

指導死を認めたこと

 2つ目のポイント。本件は「生徒指導のあり方が大きな問題となった」(本報告書106頁1行目)ものであり,Aさんの自殺の原因として教員の「11月4日の生徒指導と家庭訪問時の対応が不適切」(本報告書67頁)であったことが認定されています。つまり,本件はいわゆる生徒の「指導死」と呼ばれる事案です。「指導死」とは,生徒指導をきっかけに子どもを自殺で失った遺族の間で生まれた言葉です。「生徒指導をきっかけ,あるいは原因とした子どもの自殺」と定義されています(大貫隆志編著「指導死」高文研・2013)。本件は「指導死」を認めた事案として先駆的なものといえます。本報告書がこれまで声なき声となっていた子どもの自殺自死事件の解明に繋がることを期待します。

日常的な体罰が背景にあること

 次に3つ目のポイントです。本報告書でも明らかになったとおり,当該中学では日常的に教職員による体罰(暴力)及び暴言その他生徒の尊厳を害する行為が行われていることが明らかとなりました(本報告書37頁,88頁等)。こうした学校内での日常的な体罰が本件に影響していることは調査委員会が記者会見でも述べています。それ故に私は体罰問題の根深さを痛感しているところです。私は弁護士として何度でも言います。体罰が子どもの教育を受ける権利(憲法26条1項)を侵害しています。学校や教員が子どもの尊厳・幸福追求権(憲法13条)を奪っています。体罰は犯罪です。

調査委員会の意義と課題

 4つ目のポイント。こうした事実や課題,成果を浮かび上がらせた第三者調査委員会のご尽力に心から敬意を表します。奄美大島という物理的ハンデのある場所で想像以上の時間と労力をかけ丁寧に本件調査を実施して頂き,その具体的,迫真性のある調査報告内容にご遺族は大変救われたところです。そこには司法の限界を乗り越える程の意義があったと感じています。

 もっとも,こうした第三者調査委員会の活動が充実したものになるには個々の委員の人間性や職業意識だけに依存することには限度があります。その責任の重さ,精神的肉体的な負担が大きかったことは容易に想像できます。

 したがって,こうした第三者調査委員会の活動の責任の重大性を担保するだけの予算措置,中立性,持続性の確保が求められていることも事実です。国や各地方自治体,市民の皆さんは,早急に自らのまちの第三者調査委員会制度の点検見直しを行って下さい。

再発防止に向けた提言の実現に向けて

 5つ目のポイント。本報告書は再発防止に向けた具体的な提言をしています(本報告書100頁以下)(以下「本件提言」といいます。)。遺族や第三者調査委員会の願いは同じ過ちを繰り返さないことです(本報告書107頁)。そうすると本件の報告公表は折り返し地点にすぎません。

 本件提言は,「生徒支援」「生徒の立場に立った共感的こども理解に基づく生徒指導・生徒支援」といった新たな理念はもとより,「年次計画の作成」「その進捗状況を定期的に確認公表するシステムの構築」「市民説明会の実施」「市教委や教職員間,あるいは地域の保護者,有識者を交えた意見交換や協議の場を設けること」「検証や再発防止の取り組みの際には,本事案を調査,分析,考察した本委員会も協力を惜しまない」など,どれも示唆に富むものであり具体的かつ説得的です。

 奄美市が本件提言の内容を速やかに実行することが今後の課題であり奄美市長をはじめ奄美市に求められていることです。本報告書でも言及されているように,本件事後対応について市教委を中心とした奄美市の対応に問題がありました(本報告書98頁等)。それは,奄美市教育行政への信頼を失わせるものでした。

 他方,遺族が奄美市に対して調査委員会の設置を求めてから以降の奄美市の対応は真摯なものであり,調査委員会の庶務がおかれた総務部総務課の対応も調査委員会制度の趣旨を理解したものであったと感じています。すなわち,奄美市には本件提言を実現するだけの潜在能力は十分にあると期待しているところです。本件提言実現のために,遺族や私たちも奄美市民として労を惜しまないつもりであり,今後も奄美市に対して要望を行っていきます。

鹿児島県の課題と役割

 なお,本件提言の実現は奄美市だけの問題ではなく鹿児島県の問題でもあります。ご承知のとおり,奄美市内の公立学校の教員の人事などは鹿児島県の教育行政と密接不可分の関係にあります。そうすると本件は奄美市だけの問題ではなく鹿児島県の問題であることを,鹿児島県知事,鹿児島県教育委員会は自覚すべきです。本件提言においても市教委に対して「鹿児島県教育員会の支援を仰ぎながら」主体的な検証を実施することを求めています(本報告書100頁)。

最後に

 本報告書104頁にはこういう記載があります。「本報告書は,Aさんという一人の人間の,生まれて,生きて,自殺へと追い込まれ生涯を終えた,命の記録である」。この「命の記録」は,私の隣にいるお父さんのご苦労とご心痛,勇気の成果だと,これまで隣にいる者として切実に感じています。こうしたAさんとご遺族の「命の記録」に応える社会でありたいと思います。私自身もその社会の一員でありたいと思っています。本件提言が実現され,Aさんのようなお子さんが出てこない日が来ることを願ってやみません。そのためには,マスコミの皆さん,その先にいる保護者の皆さん,教職員の皆さん,私をはじめとする各職業人の皆さんは,それぞれの場所で,それぞれ大人として職業人として,自分のすべきこと,できることを考えて頂き,行動に移して下さい。

以  上

(奄美事務所 弁護士 鈴木穂人)