弁護士の在間です。
今日、日弁連より「災害弔慰金支給申請に対する結果通知の運用に関する意見書」が出されました。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170316_3.html
災害関連死の申請をしたご遺族に、申請が認められないという結論を出すときは、その結果の通知をする際に、ご遺族がどうして認められなかったのか理解できるよう、具体的に理由を書いて通知してくださいという内容です。
私がお手伝いをした件で、次のような方がいらっしゃいました。
東日本大震災の津波被害に遭って、ご自宅が被災し、半壊認定を受けました。
かろうじて八畳一間の部屋の泥を掻き出し、雨風は凌いだものの、ライフラインは途絶し、余震への備えから十分な睡眠を取れない日が続いていたそうです。
そのような生活の中、30代前半の息子さんは道路の復旧や地域の避難所設営のために動き続けていました。
震災から2週間が経った頃、息子さんは突然倒れて意識を失い、帰らぬ人となりました。
お父さんは、平成25年に、周囲の勧めもあり、息子さんの死は災害関連死のはずだと市に申請をしました。しかし、市からは、災害関連死ではない、申請は認められないとの通知を受けました。お父さんはその結果にはとても納得ができなかったそうです。
私がお父さんから相談を受けたのは、それから2年以上が経過した平成27年の夏です。
お父さんからお話を伺った際、真っ先に2つの疑問が思い浮かびました。
どう考えても災害関連死として認められそうなのに、なぜ認められなかったのだろう。
そして、もう一つは、なぜ、お父さんは通知を受けてから2年もの間、そのままにしてらっしゃったんだろう、という疑問でした。
お父さんから詳しくお話を伺っていくと、2つ目の疑問の答えがわかりました。
お父さんが受け取った、申請は認められないという通知、不支給決定の通知書には、次のような理由しか記載されていませんでした。
「県審査会で審査の結果、災害との関連性が無と判定されたため、弔慰金は不支給」
お父さんは、「結果には納得がいかないが、災害関連死っていうのはそういうものなんだ」と思うしかなかったそうです。
私たちも、この記載を見たときに、そういうものかと見過ごしてしまいそうですが、この理由の記載には大きな問題があります。
法的には(行政手続法上は)、結果を通知する際には、理由も付記しなければいけないとされています。そして、その理由については、申請者にとって、なぜ不支給となったのかが理解できるよう、具体的な事実関係を記載しなければならないと解されています。
それは、申請をした人が結果に不服を申し立てる場合に、具体的な理由がちゃんと記載されていなければ、どこに反論して良いかわからないからです。
お父さんが受け取られた理由は極めて抽象的で、まさに、お父さんとしては、どこに誤りがあるかもわからずに、「そういうものなんだ」と思いこむしかなかったのです。
例えば、「家は半壊に留まり、震災前と同じように住めていたのだから、震災の影響はなかったから関連性がない」とでも書かれていれば(それでも不十分ですが)、お父さんとしては、「いやいや、ライフラインも止まって、夜も寝られない生活で、とても震災前とは同じではなかったです」と反論をするきっかけがあったわけです。
平成27年3月に、盛岡地方裁判所で、行政に災害関連死とは認められないと判断されたものの、裁判でその判断が覆り、災害関連死と認められたケースがありました。
お父さんは、その報道を目にし、「行政の判断が間違っていることもあるんだ」と知り、私に相談するきっかけになりました。
その後、私がお手伝いさせていただき、平成28年1月に再申請を行い、息子さんの死は災害関連死と認められるに至りました。
お父さんは、2年以上もの間、納得がいかないまま、息子さんの死は震災と無関係と扱われたまま、過ごされていたのです。裁判の報道を目にしていなければ、今も納得がいかないまま、過ごしていらっしゃったかもしれません。
行政の判断にも誤りはあります。理由がしっかりと伝えられなければ、その誤りが見過ごされたままになってしまうかもしれないのです。
理由がちゃんと伝えられるということは、とても大事な事柄です。
私は、このお父さんのお手伝いをさせていただく中で、他にも多くの方が、納得のいかないまま過ごされているのではないか、その方たちも救済されるべきではないかと感じました。
調べていくと、東日本大震災の被災地だけではなく、昨年の熊本地震でも、同じような問題が起こっていることを知りました。
災害関連死は、ご遺族に弔慰金が支給されるか否かというだけの問題ではありません。
ご遺族にとっては、災害関連死と認められることは、例えば、慰霊祭に災害の遺族として招かれるか否かを分かつなど、心理面でも、ご遺族の心情に大きな影響を与えるものです。
また、災害関連死と認められることによって、将来同じような犠牲を生まないよう、対策を施すきっかけにもなるものです。
お父さんの件も、災害関連死と認められることで、半壊世帯であっても、生活は震災前と大きく異なる生活を余儀なくされるのであるから、その支援を充実させるべきだという対策が練られる契機になるのです。
災害関連死の問題は、他人事ではなく、誰もに関わることなのです。
今回の意見書をきっかけに、今も、「おかしいじゃないか」と感じている方が声を上げられるようになり、将来、同じような思いをする人がなくなるよう、運用が改善されることを望みます。
(弁護士 在間文康)