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ブログAlways blue skies behind the clouds

瀧上弁護士 事務所移籍のお知らせ

陸前高田事務所の弁護士瀧上です。

 

弁護士法人空と海の設立から約3年間活動させていただきましたが、このたび、新しい震災復興の拠点で活動するため、本年9月より下記の事務所に移籍することとなりました。新事務所は、弁護士は当職1名の個人事務所となります。

 

なお、これまで当職が担当しておりました事件等業務につきましては、陸前高田事務所が引継いで担当するものと、当職が継続して担当するものとに分かれることとなります。当方からも個別にご連絡差し上げてはおりますが、何かご連絡ございましたら陸前高田事務所もしくは下記の新事務所にお願い致します。

 

陸前高田の皆様には、3年もの間陸前高田事務所をご支援いただき、ありがとうございました。今後の陸前高田事務所の活動は、三森祐二郎弁護士が担ってゆくこととなります。
今後とも、弁護士法人空と海、並びに新事務所のご支援を宜しくお願い申し上げます。

 

(新事務所)
〒028-1131 岩手県上閉伊郡大槌町大槌第15地割46番地8
 震災復興をめざす岩手アザレア法律事務所
 tel 0193-55-6670
 fax 0193-55-6671

インターンシップ生(奄美事務所)から感想が届きました。

 京都大学法科大学院修了生  岡本 共生  

 

 私は人の役に立ちたい,人のために働きたいという理由で法曹という職業に興味を抱きました。そして,3つある職業のうち,弁護士になるのであれば,その際には,弁護士の数が圧倒的に足りないが故に解決できるはずのことも解決されないといった不合理な状況を変えたい,そうでなくとも困っている人がいるのであればすぐに手を差し伸べ最善の解決を導きたい,と考えていました。  

 

 ところで,大辞泉で「街弁」を引くと,「《街の弁護士の意。「マチ弁」とも書く》個人で開業し、主に地域住民からの依頼を受ける弁護士。」とあります。弁護士になるなら「街弁」が近いのかな,いやいや企業相手であっても困っていることに変わりないし「街弁」にこだわる必要はない,このように「楽天的」に悩みながら大手事務所の就活をしていたところ,そらうみ法律事務所のインターンシップの存在を知り,他事務所でも行われているサマークラークと同様の感覚で応募に至ったというのが恥ずかしながら正直なきっかけでありました。  

 

 結論から言えば,今回のインターンシップは,「現実」を突き付けられ,「予想」を大きく覆すものであり,「現実」を知るとても貴重な機会でした。一般の人や進路に悩む法学部生,現在進路をあまり深く考えていないor考えないロースクール生がイメージする,まさに弁護士の職務に触れることができました。あらゆる社会生活上の問題に困っている人が街にいて,先生方が拾い上げ,解決する,まさに何でも屋としての街弁です。  

 

 加えて,弁護士過疎地域特有の問題として,「敷居を下げ」,弁護士を「お得に」感じてもらうべく取り組まれている姿に触れることもできました。弁護士にも様々な専門分野が存在しますが,まだ実務を知らない無知な時期だからこそ,一度でも自分の目に焼き付け,先生方や地域の方と触れ合う機会はとても有益であると強く思います。今回私はお世辞抜きに,予想を遥かに超える経験をさせていただきました。

 

 貴重なお時間を割いて未熟な私に多種多様な経験をさせていただいた,鈴木弁護士,菅野弁護士をはじめ事務局職員の皆様には本当に感謝しております。本当にありがとうございました。

2019年8月29日

インターンシップ生(陸前高田事務所)から感想が届きました。

「あなたの知らない弁護士の顔・あなたの見るべき弁護士の顔 〜タカタの「空と海」を見ずに弁護士になりますか?〜」

2019年8月22日

京都大学大学院法科大学院修了生 岡田美奈

 

1 はじめに  

 この文章をお読みになっているあなたは、弁護士の「顔」をいくつご存知でしょうか。 「弁護士の具体的な仕事内容なんてイメージできない。」、というあなたは、そらうみインターンシップにご応募を。訴訟の代理人、法律相談、契約書の作成。摩天楼のオフィスで打合せ、終日パソコンの画面を見つめ、書面と格闘する日々。「こんな感じでしょう?」。そう思われたあなたも、そらうみインターンシップにご応募を。そらうみインターンシップに参加して頂くと、あなたの知らない弁護士の顔・あなたの見るべき弁護士の顔に、出会えるはずです。

 

2 応募のきっかけ  

 私は、従前から、いわゆる司法過疎地域での弁護士の活動に関心を持っておりました。しかし、実際にそのような地域でご活動なさっている弁護士のお仕事を拝見する機会には、あまり恵まれませんでした。また、弁護士の少ない地域であれば各弁護士のご負担も大きいはずで、公設法律事務所等の見学を自分から申し出て、お時間を割いて頂くことにも躊躇いを感じておりました。とはいえ、いつか司法過疎地域で働きたいなら、間近でお仕事の様子を拝見しておきたい。そんな中、弁護士過疎地域での活動経験をお持ちの弁護士が立ち上げられた、そらうみ法律事務所のインターンシップの存在を知り、応募を決めました。

 

3 陸前高田で見たいくつもの弁護士の顔  

 私がインターンシップ生として採用されたのは、陸前高田事務所でした。陸前高田は、ご存知のとおり、先の大震災で壊滅的な被害を受けた場所です。また、司法過疎地域で、震災前から弁護士が存在しておらず、震災の約1年後に「いわて三陸ひまわり基金法律事務所」が開設された場所でもあります。震災後は、「いわて三陸ひまわり」の初代所長に就任なさった、そらうみ法律事務所ご所属の先生を含め、市外から集まった弁護士が仮設住宅等を巡回し法律相談会を行われました。

 そして、その巡回法律相談会は、現在もなお継続して実施され、今や322回を数えるのです(2019年8月現在)。震災から約8年半経ち、状況は少し変わりましたが、まだまだ震災が原因で苦しむ方が大勢いらっしゃること、陸前高田が司法過疎地であること、は変わっていません。そのような場所で、弁護士はどのような活動をなさっているか、ご想像がつかない方もいらっしゃるのではないでしょうか。  地域の人的・物的事情に関するお話に細やかに耳を傾けつつ、的確に法的問題を掬い上げる法律相談。勿論その場所は、事務所内に限りません。ある時は仮設住宅等、ある時は市役所、またある時は法テラスのプレハブ、必要とあれば相談者の方のご自宅や法テラスの専用車の中ででも。求めがあれば、駆けつけて法律相談!  

 また、陸前高田を拠点とするNPO法人や企業の活動を法的にサポート、一緒に陸前高田をもっと元気に。さらに、震災に起因して生じた地元の法的問題を公的機関とも協議。ただし、法律家という立場から、法的な回答を心太の如く押し出して終わってしまうのではなく、震災後の陸前高田のこれまでの歩みを知る弁護士でいらっしゃるからこそ、これからの陸前高田を照らす解決策を建設的に模索。弁護士会の委員会活動では、事務所に持ち込まれた震災に関する案件を紹介し、震災となお向き合って暮らさざるを得ない方々と日々接する弁護士として、災害関連死を含む震災に関する生の問題を提起。陸前高田外の弁護士とも問題意識を共有し、議論し、声を上げるため必要な行動を促す。 そして、街を歩けばあちこちで、地元の方から「先生!」と笑顔で声をかけられ、目を輝かせて談笑。私が、陸前高田の広い空と海の間で出会ったのは、そんな弁護士の顔の数々でした。

 

4 弁護士を目指すあなたに  

 弁護士にアクセスできないばかりに、それが法的な問題であることさえ知ることができず、長年悩みを抱え続けてこられた方々。未だ震災の爪痕が、目に見えるものも・目に見えないものも存在している陸前高田。司法過疎と震災という問題を背負わざるを得ず、苦しんで来られた方々に、弁護士としてできることを考え、一歩一歩足を進めるそらうみ法律事務所の先生方。  

 そらうみ法律事務所の原点の一つは、陸前高田の地です。司法過疎地域であり、そして震災のために一瞬であらゆるものが奪われてしまった場所。そのような場所であればこそ、学んだ法律の知識を社会で活かしたいと志す者は、困っている誰かのために「法律にできることは何か。」「法律家にしかできないことは何か。」、という問いと強く向き合えるのではないでしょうか。  法律問題は、どこにでも存在します。けれど、その法的解決方法が一つではないように、法律問題との弁護士としての向き合い方も、唯一無二の答えが用意されているわけではありません。それは、どんな場所で働く弁護士にも共通してあてはまることではないでしょうか。そして、陸前高田のような司法過疎地域では、弁護士の多様な可能性をきっと発見・再認識して頂けるはずです。  

 これから弁護士の道を目指す方には、どんな場所で働かれるにせよ、弁護士の顔は一つではないことを、同じ道を目指す者としてお伝えしたい。ただ、この拙い文章では、その大切さも、魅力も、100パーセントお伝えすることなどできません。  

 ですから、どうぞあなた自身、そらうみインターンシップ生として、そらうみ法律事務所の先生方に会いに来てください。司法過疎地で走り続ける弁護士として、先生方の咲かせる沢山の素敵な「顔」が、あなたをお待ちしています!

災害関連死 〜声なき声を遺訓とするために〜

東京事務所の在間です。

 

東日本大震災から、8年と5か月が経過しました。

私は、これまでに、数多くの災害関連死(震災関連死)の問題に接してきました。

災害関連死に関しては、多くの報道がされていますが、重要な問題が見過ごされているように感じています。

 

 

災害関連死について考えるとき、私にとって特に印象深いある男性(「Aさん」とします)の件があります。

 

Aさんは、東日本大震災の津波被害で自営していた店舗を失いました。

高台の住居は被災を免れましたが、収入の一切が絶たれてしまいました。

事業ローンや子ども達の進学費用、生活費を捻出しなければならず、店舗の早期再開を目指しましたが、被災した市内で用地を確保することはままならず、時間だけが経過していきました。

Aさんは、焦り、不安などのストレスから、不眠に陥り、持病の高血圧症も急激に悪化していきました。そして、震災から9か月後、Aさんは心筋梗塞が原因で亡くなられました。

 

Aさんの妻は、Aさんの死は「災害関連死」にあたるのではないかと考え、災害弔慰金の申請を行いました。しかし、市からは、Aさんには震災前から既往症があったなどの理由で、申請を却下されてしまいました。

Aさんの妻は、納得ができず、訴訟を提起しました。

訴訟では、既往症があったとしても、震災によるストレスがそれを悪化させ、死に繋がったとの裁判所の判断が下されて、最終的に災害関連死と認められました。

Aさんの妻は、最初の申請から約3年の時を経て、ようやく、震災で亡くなった者の遺族として扱われるようになりました。

 

 

災害弔慰金の支給等に関する法律3条は、「災害により」死亡した者の遺族に対して災害弔慰金を支給すると定めており、直接死に限定せず、死亡と災害の間の関連性(災害関連性)が認められれば、関連死も対象とされます。

災害関連性の有無は、自治体に設置された審査会において判断されることになりますが、多くの事例で、死亡の原因が、災害によるのか、その他の要因によるのかの境界があいまいで、その判断は容易ではありません。

私自身、ある自治体で審査会の委員を務めていましたが、災害関連性の有無の判断は、本当に難しく、悩むことばかりでした。

 

そのため、災害関連性の判断のばらつきを防止するために、統一基準が策定されるべきであるという声があります。

しかし、私は、「基準ができれば、正しい判断ができるようになるはずだ」と安直に捉えている見解には違和感を覚えます。

災害の種類や規模、地域によって、被災者が受ける影響は千差万別です。例えば、新潟県中越地震では発災から3年2か月後には仮設住宅の入居者数はゼロとなったのに対し、東日本大震災では発災から8年が経過してもなお3000人以上の被災者が仮設住宅での生活を余儀なくされています。

また、個々の事案毎に、死因や災害前後の生活状況、災害で生じた被害など、災害から死亡に至る経緯は多種多様で、同一の案件は一つもありません。

この災害関連死の特性を無視して、安易に基準を策定し、個々の事案に当てはめようとすると、かえって、実態に即さない不当な認定結果を導くおそれが強いと思うのです。

 

審査基準を設けるのであれば、少なくとも、過去の災害関連死の事例が十分に分析され、その結果を基にして策定されなければなりません。

しかし、これまでに、過去の災害関連死の事例の分析は、ほとんど行われていません。

 

 

Aさんの件に戻ります。

Aさんの妻は、Aさんの死が災害関連死と認められたことで、ようやく災害弔慰金の支給を受けましたが、それまで、Aさんや妻は、「被災者」として扱われていませんでした。

被災者生活再建支援法では、「被災者」とは住居の被害を受けた者のことをいい、住居の被災を免れたAさんには、支援金は支給されなかったのです。

つまり、現行の被災者支援制度では、Aさんのような「生業を失った方」に対する支援が漏れてしまっているのです。

 

仮に、Aさんが存命中に、生業に対する支援として支援金が支給されていればどうだったでしょうか。

Aさんの焦りや不安は、少なからず、和らぎ、命を失うことはなかったかもしれません。

Aさんの死は、現行の被災者支援制度の問題点を炙り出しているのです。

被災者生活再建支援法に、生業に対する支援が盛り込まれれば、将来の災害で、Aさんと同じような立場の多くの人々を救うことができるかもしれません。

 

Aさんの事案だけでなく、あらゆる災害関連死の事案には、その死を防ぐための手がかりが残されています。

災害関連死は、被災後に苦しみ、無念にも命を落とされた方々の最期の声であり、将来の災害で同じ犠牲を生まないための遺訓が込められているのです。

 

ところで、災害関連死の事例は、災害弔慰金の支給主体である自治体が保有しており、これまで、国で統一的に収集されておらず、十分な分析もされていません。

これまで述べてきたとおり、過去の災害関連死の事例を集積し、分析していくことは、極めて重要で、それを縦断的、横断的に行うことができるのは、国以外にありません。

日本弁護士連合会は、2018年8月に、「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」を出し、事例の分析を実効的に行うために、調査機関を設置すること等を提言しましたが、国には今のところその動きは見られません。

 

私たちは、この災害大国に暮らす以上、いつ自分や家族が被災者の立場に置かれてもおかしくありません。

無念にも災害で命を落とされた方々の最期の声に耳を傾け、将来への遺訓とすることは、決して先送りの許されない、私たちの責務と言えるでしょう。

国によって、災害関連死の過去の事例の集積、分析が行われることを強く望みます。そのための活動を今後も続けていきたいと思います。

 

 

  東日本大震災から1年3か月後の陸前高田市内(2012年6月撮影)

 

 

(弁護士 在間文康)